朝日新聞(大阪本社版)の記事に対する要望書

朝日新聞(大阪本社版)2004年12月11日付け夕刊に掲載された「大麻栽培はびこる」という記事について、記載されているコメントに大麻に関する無理解・誤解があることを指摘するとともに、公正な視点から報道がなされるよう求める要望書を朝日新聞社に送付しました。



要望書

大阪府 大阪市北区 中之島 3丁目2?4
  朝日新聞社大阪本社
  広報部
  代表取締役社長 殿

2005年3月7日
カンナビスト運営委員会

前略

わたしたちは、現在の大麻規制の見直しを訴えて活動しているカンナビストという市民団体です。朝日新聞(大阪本社版、以下同)2004年12月11日付け夕刊に掲載された「大麻栽培はびこる」という記事について、わたしたちは、以下の2点ついて疑問を感じています。

一、現在、大麻取締法という法律があり、国が大麻の取締りを行っていることは客観的事実であり、それが記事になることもあるかもしれません。しかし、朝日新聞に掲載された上記記事は、取締り側である「捜査当局」の大麻を覚せい剤・麻薬などと同一視した姿勢を無条件に肯定しているような論調になっています。「県警幹部」の「(大麻の種の)販売の実態を明らかにし、取締りを強めたい」といった発言を引用して記事を結んでいることは、取締りの強化を促しているとも見受けられます。

大麻取締法について、著しい有害性は認められない大麻の所持・栽培について過剰に厳しい刑罰を科しているのではないかと、その見直しを求める声があることをご存知だったでしょうか。

現在、大阪、高松のそれぞれ別の大麻事件裁判で、被告側から大麻取締りは憲法違反であるとの訴えがなされています。その他にも日本全国、大麻事件の法廷で、被告から大麻がどうして悪いものなのか納得できないという意見が出されています。このような声は、現在、社会的には少数かもしれませんが、真っ当で、正当な意見であるとわたしたちは認識しています。

先日、「ハンセン病問題検証会議最終報告」が発表されました。それを報じた朝日新聞の記事によれば「ハンセン病患者や元患者、家族らへの差別と偏見は、誤った国策によるものであるが、単に国だけの責任に帰すことはできない」として、マスメディアの責任についても言及しています。以下、引用します。

「社会の「議題設定」機能を発揮すべきメディアは、この隠蔽された人権侵害の救済に無力だった。歴代の新聞記者の多くはハンセン病問題に不勉強で、療養所に足を踏み入れることもなかった。新しさや、多数者の求める情報に目を奪われがちで、少数者のものでも聞く必要度の高い声に耳を傾けることを怠った。社会問題の多くは報じられることで社会的に認知される。報道者が気づかぬということは、社会的に問題を抹殺したのも同然だった。」(2005年3月2日付け朝刊)

これは、まさに大麻問題にも当てはまるのではないでしょうか。大麻は、覚せい剤や麻薬とは違うものですが、残念ながらそれらを同一視する偏見がまかり通っています。大麻を取り締まる法律(大麻取締法)は、大麻の有害性を前提にしたものですが、この間、大麻には有害性がないか、あったとしても軽微だということが明らかになってきています。それにもかかわらず大麻取締法により年間2000人を超える逮捕者が出ており、犯罪者として法的・社会的に厳しい制裁を受けています。

このような状況は理不尽なものであり、今後、公正な視点から報道がなされるよう求めます。

二、同記事の勝野真吾・兵庫教育大大学院教授の「有害性知らせる取り組みが必要」と題されたコメントは、大麻に関する無理解、誤解があります。このような誤解に基づいた発言が報道機関により社会に広められることは、大麻を「麻薬」などと同一視する偏見を助長するものです。以下、該当部分を引用するとともに、その問題点を指摘いたします。

「取締りの強化は当然だが、ネットを利用して逆に大麻の有害性を知らせるなど、現代社会にマッチした取り組みを進める必要がある。」

 「大麻の有害性を知らせる」とのことですが、大麻には所持や栽培を刑事罰で罰するほどの有害性はありません。そのことは、EU諸国、カナダ、オーストラリアなど人権に配慮した先進諸国では公知の事実になっており、それらの国々では大麻の「非犯罪化」が実現しています(※注1)。

2004年、厚生労働省に対し情報公開法に基づき、大麻の有害性について情報開示請求を行いましたが、その回答によれば、日本国内では大麻が原因による二次犯罪は起きていないこと、大麻が原因の各種の病気・健康障害は起きていないことが明らかになっています。また厚労省は、1990年代以降に欧米の公的機関・議会などで発表された大麻の有害性・安全性に関する主要な研究や非犯罪化の事例16項目のうち15項目は何も情報を持っていない(2004年1月のイギリスの非犯罪化に関する情報1項目については、厚労省関係の冊子で僅かにふれている)ことが明らかになっています。つまり国内で大麻の有害性を示す実例はないこと、海外の新しい研究や調査について国はほとんど把握していませんでした(※注2)。

現在、大阪高等裁判所で裁判が行われている「桂川さん大麻事件」の公判では、大麻の有害性を示す証拠の一部として検察側から提出された、厚生労働省外郭団体財団法人「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」ホームページ抜粋について、弁護人から実際に大麻の害悪の具体的証明があるのか、出典などを明かにするよう検察側に求めました。それに対する検察側からの返答は「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」に問い合わせたところ回答をもらえなかったので、釈明しないというものでした(※注3)。

これは、「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻の「有害性」が、根拠のない情報だということが法廷の場で明らかになったということで大きな意味を持っています。

「ネットを利用して逆に大麻の有害性を知らせる」という意見を出されていますが、現在、ネットでそれを実際に行っている「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」のホームページは、根拠のない誤った情報を伝えていることが明らかになってきました。まず大麻に対する偏見を改め、公正な目で大麻問題を考えてもらいたいと願っています。
(補足として、「大麻は鎮痛剤や繊維の材料として使われているほか、食用の種もある。」(発言記事引用)との発言について、大麻取締法では、大麻を医薬として用いることを禁じているため「鎮痛剤」として使われているというようなことはありません)

(注)
(※注1)朝日新聞2001年3月27日付け朝刊「大麻 欧州「容認」へ傾斜」記事。
(※注2)厚生労働省発薬食第0408033号〜066号/厚生労働省発国第0409001号/厚生労働省発薬食第0511023号
(※注3)平成16年(う)第835号大麻取締法違反被告事件。大阪高裁第3回公判、2004年11月24日。

【カンナビストについて】
カンナビストは現在の不当に厳しい大麻取り締まりの見直しを求めて活動している非営利の市民団体です。
  設 立:1999年7月1日
  会員数:3,343人(2005年1月31日現在)
  ホームページ http://www.cannabist.org/
カンナビストは、科学的に見てアルコールやタバコと比較しても有害とはいえない大麻に対して、現行の大麻取締法に基づく取締りや刑事罰、および社会的制裁は不当に重く「人権侵害」であるとの主張に基づき、大麻の個人使用の「非犯罪化」を提案しています。

カンナビストでは、大麻に対する誤解や社会的偏見を正すことに主眼を置き、インターネットによる情報提供、ニュースレターの発行、定例会の実施、各種イベントへの参加をはじめとする啓蒙活動などを行っています。今春には日本弁護士連合会に対して、大麻問題について「人権救済申立」を行います。

 カンナビスト運営委員会
  〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
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  電子メール:info@cannabist.org
  http://www.cannabist.org/